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提言「ホスピスケアからコミュニティケアへ」 山崎章郎

ホスピスケアからコミュニティケアへ
調和の取れた福祉と医療が作りだす安心高齢社会の都市型ケアタウンモデル事業構想

〔はじめに〕 アメリカの精神科医エリザベス・キュブラー・ロスの著書「死ぬ瞬間」(読売新聞社)を通してターミナルケアに関心を持ち、一般医療現場で末期癌患者を対象にした医療・ケアに取り組むようになって20年がたった。また、その途中から一般医療現場での癌末期患者に対するターミナルケアには限界があることを痛感し、その解決をホスピスに求め、現在の聖ヨハネホスピスに転身してからあしかけ12年が経過した。 そして、そのホスピスケアに携わる経過の中で主に癌末期患者とエイズの末期患者をそのケアの対象とした現在の我が国に於けるホスピス(厚生労働省の設置基準を満たしたホスピスは緩和ケア病棟とも呼称される。したがって今後本稿の中で使用するホスピスは=緩和ケア病棟をも意味している)が持つ後述するような問題点も強く自覚するようになってきた。2002年9月現在、ホスピスは全国で107施設、2,017病床あり、年間の癌死者約30万人の約3%がそれら施設でケアを受けていると予測される。 したがって、現状ではホスピスの数はまだまだ少ないと言える。しかし、現状のままのホスピスが今後飛躍的に増加して、癌末期患者の入院先が増えたとしても、ホスピスが現在持っている問題が解決されるわけではない。そこでホスピスの現在の問題を明らかにするとともに、その解決の一つとして従来のホスピスケアの在り方を乗り越える新しいケアの在り方(コミュニティケア)について論を展開したい。

〔提言要約〕

提言:ホスピスケアからコミュニティケアへ

現状の緩和ケア病棟が今後飛躍的に増加して、癌末期患者の入院先が増えたとしても、現在のホスピスに課された大きな問題が解決されるわけではない。そこで、ホスピスが抱えている現在の問題を明らかにし、その解決の一つとして、従来のホスピスケアの在り方を乗り越える新しいケアの在り方(コミュニティケア)について述べてみたい。

ホスピスケアの基本は

癌末期患者を主なケアの対象にしたホスピスケアの基本は次のようなものになる。

ア.病状の進行に伴って出現する身体的苦痛症状の軽減。
イ.病状の進行に伴って低下した日常活動の支援。
ウ.癌末期という深刻な状況にいる患者の家族が直面する諸問題に対する支援。
エ.不治の可能性が高いこと、また死に直面していることやア、イ、ウ、などの状況下によって引き起こされる患者および家族の精神・心理的苦悩およびスピリチェアルペイン(存在する意味を見失った時に感じる苦悩など)に対する適切な支援、また同状況下で起きてくる失職や経済的苦境などの社会的苦悩に対する支援。
オ.以上のアからエまでの諸課題を様々な専門家やボランティアがチームを組み支援する。

ホスピスケアの目標は

いかなる状況下でも可能な限り不治の状態にある末期癌患者の人間としての尊厳や権利を守ることであり、患者が自ら考える尊厳の中で人生を送ることが出来るようにチームとして支援することである。また死を間近に控えた患者の家族が直面する諸問題に対しても可能な限り支援する事である。

ホスピスケアは誰のものなのか

上記の目標は、末期癌患者とその家族のためだけのものなのであろうか。否である。死の近さの有無に関係なく、高齢や障害によって自分の尊厳や権利を守ることが困難になっている人々にとっても、ホスピスケアは必要なのである。

ホスピスケアの問題点は

(1)医療保険制度の問題 現状のホスピスがその医療保険の制度上、殆ど末期癌患者のためだけに機能していることが問題なのである。

(2)在宅支援体制の問題 在宅でのホスピスケアを提供する支援体制が不十分な点である。仮に在宅ケアが成立したとしても、支援体制の力量不足で入院せざるを得ないこともある。

(3)ホスピス運営上の経済問題 医療保険制度上、癌やエイズ以外の末期患者の入院ということになると、その医療費は出来高払いとなり、その患者の治療に要した検査や薬剤費が中心となる。症状コントロールを中心にした医療・看護と病状の進行によって低下した日常生活の支援、そしてまた、そのような状況における患者・家族の精神的支援などを行うホスピスでは、一般病棟における治療のように濃厚な検査や治療は行わないため、その請求できる医療費は低額となってしまう。結果的によりよいケアのために一般病棟よりも手厚い人員配置をしているホスピスは、経済的に行き詰まり運営できなくなってしまうだろう。現行の医療保険制度が改革されなければ、解決が困難である。

(4)ホスピスが病棟として位置付けられている問題 我が国のホスピスは、制度上、病院の一部である「緩和ケア病棟」として位置づけられていることである。ホスピスケアには医療も看護も必要とする。しかし、緩和ケア病棟設置基準に基づく医師や看護師を主体にした緩和ケア病棟の規格の中では、本来的なホスピスケアの提供には限界があると思われる。ホスピスケアの目標は、患者・家族の生活支援であり人生支援なのである。ホスピスは、生活の場であり病棟ではないのである。

ホスピスケアからコミュニティケアヘ

我が国の従来の経過から、ホスピスケアという言葉が末期癌患者とその家族への支援というホスピスケアの狭義の意味合いで定着してしまい、その本来的な意味合いを表現するための適切な言葉ではなくなってしまった。そこで、ホスピスケアという言葉を、地域社会におけるケアを意味するコミュニティケアと言いかえた方が、より適切であるように思える。したがって、「コミュニティケアの目標は、いかなる状況下においても、心身の困難に直面しているあらゆる人々の尊厳や権利を可能な限り守ることであり、その人が考える尊厳の中で、可能な限りその人らしい人生を送ることが出来るように支援することである。また同時に、そのような人々の家族が直面する諸問題に対しても可能な限り支援する事である。」となる。

(提言者:山崎 章郎)

〔提言全文〕山崎先生提言全文.pdf